電通といえば日本最大の広告代理店です。女性社員の方の過労自殺をきっかけに、最近は大手マスコミでも取り上げられることが多くなりました。
しかし、以前はマスコミ等にはほとんどその名前が出ず、ネット上ではメディアを、ひいては日本を支配しているという、陰謀論のような形でその名前を聞くことが多かったように思います。
本書は2012年に出版されています。苫米地さん自身もテレビに出演することがありますが、それでもこの本を出版したのは、勇気がある行動だと思いますし、大変意義のあることではないでしょうか。苫米地さん自身もリスクを承知で電通の闇を掘り下げると書いています。
内容ですが、前半はメディアに対する批判、後半はそのメディアの裏に君臨する電通への批判とその対策。付録として過去に報道された電通による「メディア支配」の具体例一覧(この部分は苫米地さんではなく、文責サイゾー編集部となっています)が載っています。
メディア側の問題点
序章では、苫米地さんがメディアを批判するきっかけらしきことが書かれています。それは東日本大震災です。
震災報道のなかで、記者会見が何度か行われました。政治家や役人が記者会見をする際には、記者からとても強い、罵声のような質問が浴びせられたのです。
これは当然でしょう。当時の政府や公的機関の説明には素人目に見てもグダグダでした。問題は東京電力の幹部による記者会見です。その場ではあれほど威勢の良かった記者たちが、丁寧に冷静にまるで紳士淑女のようになってしまったのです。理由は東京電力が大手スポンサーだったことでしょう。スポンサーに対して強く言えないのはメディアの弱点と言えます。
スポンサーが直接圧力をかけなくても、メディア側が自主規制してしまう場合もあります。今風にいうと忖度でしょうか。
公正な報道をするには編集と経営(広告)の分離が不可欠です。

建前上はそういっていても、実際にはそうではないのを震災報道で露呈した形でしょうか。
しかし、今回は東京電力が大スポンサーで、報道する内容も原発関連などの東京電力に関することでした。こうした特殊な場合以外は、1社の意向が強く通るとは限りません。
なぜならば、スポンサーの意向に逆らえないと言っても、個々の会社の利害や思想は違うからです。ただし、スポンサーたちを束ねる存在があれば別です。スポンサー企業を束ねることができれば、メディアを思うがままに操れます。
そして視聴者を洗脳することが可能となるのです。スポンサー企業を束ねる存在というと、広告代理店・・・ここでようやく電通の名前が登場します。
電通メディア支配は陰謀論ではない
電通は日本最大の広告代理店で、一社でかなりのシェアを持っています。特にテレビに関しては約4割です。これは本書が書かれた2012年と現在(2017年)でほとんど変わっていません。
広告代理店自体は日本に複数あります。それらの広告代理店が競い合っている状況ならば、電通がメディアを支配しているとはいえないでしょう。実際に海外では1代理店1業種が一般的だといいます。ところが電通は業界内で競合する複数の会社を同時に担当します。少なくとも、テレビメディアに関しては電通が牛耳っていると言っても過言ではないでしょう。苫米地さんはこれが本書で電通を名指しで取り上げる理由だといいます。
戦後のGHQとの関係や、スポーツイベントを通して大きくなった電通の歴史にも触れていますが、私が特に関心を持ったのが電通の有価証券報告書の分析です。(余談ですが、苫米地さんは三菱地所の社員時代に財務を担当していたそうです)
株主構成を見ると、元々同じ会社だった共同通信社時事通信社、リクルートやTBSなどが電通の大株主であることがわかります。そして電通自身はリクルートやテレビ朝日の株を保有しています。メディアと株を持ち合っているのはどうなのでしょうか。
さらに驚くのは、元公正取引委員会長の根來氏が取締役になっていることです。電通は本来であれば、独占禁止法の対象になりうると思うのですがこういったカラクリがあったわけです。
そしてテレビにおいては視聴率が重要ですが、その視聴率の測定をしているのはビデオリサーチ社一社で行っています。その筆頭株主が電通なのです。視聴率を握っているのも電通。
電通のメディア支配は、もはや陰謀論とは言えないのではないでしょうか。
電通の闇、日本の闇。
本書を読んで感じたことは、インターネットのない時代の恐ろしさです。
テレビメディアを支配している電通ですが、ネットではどうでしょうか。価格コムや食ログを運営している株式会社カクコムは電通の子会社です。また電通とFacebookが提携しているように、WEB上でも電通は存在感を示しています。
たしかに強力なプレーヤーであることは間違いないのですが、WEBを支配しているとまではいえないでしょう。

逆に言えば、テレビしかない時代は、今以上にやりたい放題だったということです。
最後に一つだけ。
元公正取引委員会長の根來氏が電通の社外取締役だったのは、平成15年~平成22年までのこと。現在はどうなっているのかを調査しました。以下は電通のWEBサイトです。

社外取締役に”松原亘子”という名前があります。彼女は労働省(現在の厚生労働省)の出身で、女性で初の労働事務次官になった人物です。

電通に労働基準法違反の疑いで、厚生労働省の強制捜査が入ったのが去年の11月。労働省(現厚生労働省)の元事務次官である、松原亘子氏の社外取締役就任が今年の2月。これはどういうことでしょうか?
電通の闇以上に…日本の闇を感じます。
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