フリーミアムという概念があります。基本的なサービスや製品は無料で提供し、有料で高度な機能を提供するというものです。
当時アメリカの雑誌WIREDの編集長だったクリス・アンダーソンが書いた『フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略』によって紹介され、広まりました。
2017年現在、ソシャゲやアプリなどでは一般的になりました。WEBサービスにおいては一部を除いて標準的なビジネスモデルと言っても過言ではないと思います。
そのフリーミアムの解説を苫米地さんがしてるのが本書になります。クリス・アンダーソンの本の批判、苫米地さんの独自フリーミアム解釈、フリーミアムの世界での対処法などです。
それでもフリーランチはない!?
『無料の昼飯なんてものはない(there’s no such thing as a free lunch)』という言葉があります。SF小説『月は無慈悲な夜の女王 (ハヤカワ文庫 SF 1748)』が元ネタで、その場では無料であっても、別の形や別の人がそのコストを負担しているので、本当に無料のものは無いという意味です。
例えば、YouTubeを考えてみます。あなたはYouTubeを無料で見ることができますが、YouTubeを維持するためにはメンテナンスやサーバーなどにお金がかかります。これらのコストは広告収入によって賄われているのです。あなた自身はYouTubeにお金を払っていませんが、広告を出稿している会社が代わりにコストを負担していると言えます。
ノーベル経済学賞を受賞した経済学者のミルトンフリードマンがよくこの表現を使いました。これに対して『フリー』のクリス・アンダーソンは
①本人にとっては無料である
②デジタル社会では限界費用がゼロになる
という2つの理由でフリーランチはあると主張しています。YouTubeの例で言えば、あなた自身にとっては無料であるというのが①です。
限界費用とは製品やサービスを増やすのにかかる費用のことを言います。
例えば車を一台作るとして、加工機械や原料、人件費などが必要ですが、二台目を作るとどうでしょうか。加工機械はそのまま使えるとしても、原料となる鉄やゴムは追加で必要ですし、一台目を作った人にもう一度作ってもらうとすると、その時間分の給料を払う必要があります。この増えた分の費用が限界費用です。
YouTubeの場合は最初にYouTubeのサイトとシステムを作ってしまえば、あとはメンテナンスをするのみで手間がほとんどかかりません。サーバー代は動画の数に応じてかかりますが、車やその他リアルの製品に比べれば限界費用はかなり安いと言えるでしょう。これが②です。
クリスの主張に対して、本書で苫米地さんはそれでもフリーランチは無いと主張します。
①については確かに金銭的には無料だが、それ以外の対価を支払わされていること。YouTubeで言えば、あなたはお金は払っていないが、広告を見るという対価を払っているし、アプリで言えば、情報という対価を差し出している可能性があります。これはそれなりに説得力があると思います。
②については主張が少しわかりにくいです。
現代においては、グルメ情報やレジャー情報のコンテンツは、情報誌を買って読むまでもありません。携帯電話でサイトを調べたり、自宅のパソコンで検索したりするほうが簡単ですし、より多くの選択肢のなかからタイムリーなものを選べます。
(中略)
さて、このようにマスメディアがたどってきた状況を振り返ってみると、実は、コンテンツビジネスの「食材」の多くが、もともとはほとんどタダ同然であったことがわかるのではないでしょうか。それは、記者発表のペーパーだったり、企業から提供されるイベントの情報であったり、極端にいえば、どれも待っていれば向こうからやってくるものばかりです。
(中略)
このように考えていくと、食材コストがゼロになり、さらに調理コストがゼロになったから、「フリーランチはない」というフリードマンの常識が覆ったというのは、前提を間違えていることがわかってきます。
45~46ページより
苫米地さんは限界費用がゼロに近づいていることは否定していません。しかし、それはデジタル化によってフリーになっただけではなくて、もともとフリーミアムのものがあると言いたいのではないでしょうか。
さらに国自体がフリーミアムだと苫米地さんは言います。
例えば国は教育や医療などを無料もしくは格安で国民に提供します。学校でいえば公立と私学の学費の差は一目瞭然ですし、公的医療制度のないアメリカの医療費が日本と比べて高いことは知られています。
これらのサービスは慈善事業でやっているのではなくて、税を徴収するためにやっていると考えればフリーミアムだとも言えるでしょう。
無料はどうして効果的?
ではフリーミアムはどうして効果的なのでしょうか。苫米地さんはホメオスタシスが原因だと言います。
ホメオスタシスは恒常性維持機能のことで、例えば体温を一定に保ったりする機能です。この詳しくは苫米地さんの他の本を読んでもらうとして、このホメオスタシスが脳=心、精神にも当てはまり、一定に保つ幅のことをコンフォートゾーンというのが苫米地さんの理論です。
これはお金にも当てはまり、いつも財布の中に2万円入っている人は2万円が自分のコンフォートゾーンと言えます。
無料である以上はお金が減らない=コンフォートゾーンから外れないので非常に魅力的に感じるわけです。
また、ホメオスタシスにとってあまりにも魅力的なので、主従が入れ替わってしまうことが問題だといいます。例えば無料であるがゆえに本当に欲しくないものを手に入れてしまうことです。
どうすればいいのか?
現状フリーミアムが一般化しているわけですが、その上での対処法を3つ書いています。
1つ目はフリーミアムの仕組みを知ることです。本当の意味でのフリーランチがないことや、上に書いたなぜフリーミアムが効果的かを知っていれば冷静に対応することができます。
2つ目はコーチングです。コーチングについては苫米地さんの他の本を参考にしたほうがいいと思いますが、金銭に捕らわれないゴールを設定することで、フリーミアムの呪縛から自由になると言います。
3つ目はあえて束縛をされるというものです。具体例として、自宅にカギをかけることをあげています。カギをかけることは束縛ですが、それによって安全性を得ていると言えます。それと同じように、無料であってもすべて利用するのではなく、”自分にとって本当に必要か”を自問自答して必要でないのなら利用しないという選択肢もとるべきだというのです。
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