個人の対象にするコーチングである、パーソナルコーチングに対して、組織(非営利を含む)に対するコーチングである、コーポレートコーチング。
その下巻になります。内容は中級編です。本書でも簡単な用語解説は付いていますが、入門編と初級編については上巻に書いているので、先に読むことをオススメします。

上級編については、文字で伝えるのに限界があるため、実際にコーポレートコーチングを受けてくれと言います。車の運転でもスポーツでもそうですが、本を読むだけで取得するのは難しく、実際に体験して経験を積むことが必要なのでこれはやむを得ないでしょう。
日本人の生産性が低い理由
中級編と言っても、本書はかなり高度な内容になります。苫米地さんがよく使う用語では、”抽象度が高い”内容だと言ったほうが的確かもしれません。
企業がゴールを持つ必要性を説いているのですが、それは特定の企業だけでなく、日本全体の企業、ひいては日本経済全体に必要だと言います。
確かに、日本人の生産性の低さはよく言われることです。よく少子化が原因だと言われますが、現段階では人口はそこまで減っていません。
しかし、国民一人当たりのGDPは先進国では最低レベルで、GDPはほぼ横ばい。イギリス人金融アナリストのデービット・アトキンソン氏は『新・所得倍増論』の中で、経営者の能力が低いことと、ITへの対応が遅れていることが日本が生産性が低い大きな理由だと言います。
苫米地さんは本書でもっと踏み込んでいて、経営者が従業員たちに的確なゴールを提示できてないのが原因だと言います。高度経済成長期やバブル時代には日本人の生産性は高かったのです。これは従業員たちが経済成長という夢を見ることができて、経営者もゴールを示しやすかったことが要因だと言うのです。
逆に従業員にゴールを示せている例として、苫米地さんはAppleを上げています。
苫米地さんがApple Watchを予約しに伊勢丹に行ったときのことです。対応してくれたApple社から派遣されたエリート社員は、伊勢丹でApple Watchを販売することに誇りを持っているように見えたそうです。家電量販店にはメーカーから派遣されてくる販売員の方がいます。もちろん全員ではないですが、モチベーションが低い方も居ます。また自社の商品を売ろうとするあまり、他社の商品を貶めてしまうケースもあります。これは自社に対するエフィカシーが低いから起こるとも言えるでしょう(本書でもタイガーウッズを例に出して、エフィカシーが高いとはどういうことかを説明しています)
『自分はこんな世界の辺境で時計を売っているような人間ではない』と考えるのではなく、日本でApple Watchを売ることができて誇らしいという気持ちをApple社の従業員は持っていたということです。
『窓際族』と『熱血社員』が同じゴールを内包する!?
コーポレートコーチングによって、企業がゴールを設定する場合、経営者から従業員まで同じゴールを持つことが重要なことは、上巻から繰り返し書かれてきました。
これは言うは易く行うは難しです。例えば窓際族と熱血社員が同じ社内にいたとしたら、どのようにゴール設定したらよいのでしょうか。
熱血社員であれば、会社全体の生産性向上を計るはずで、生産性が上がれば、一人一人の働く時間は減るはずです。つまり生産性が高い企業ほど勤務時間が短く仕事が楽だと言えます。
だから窓際族が会社に在籍できるということは、会社の生産性が高く優秀な証だと考えるべきで、その上で抽象的なゴールを設定すれば両者はゴールに内包できると苫米地さんは言います。
・・・多少強引ですが、打開のヒントくらいにはなりそうです。
コーチとメンターは違う
コーチとコンサルタントの違いについては、上巻に出てくるし、本書でも少し触れています。ではメンターとコーチがどう違うのでしょうか。
メンターはビジネスでお手本になる人や目指したい人を指します。『師匠』と訳されることも多いでしょう。これはコーチとはまったく別で、コーチは具体的な技術面にはふれないというのです。
クライアントのエフィカシーを上げるために、様々なことをコーチはしますが、業務内容にはノータッチで、だからこそ専門外のこともコーチングできるのだと言います。
例えば、コーチングの祖ルータイス氏はアイスホッケーのコーチングをして成果を上げました。ルー氏本人はスケートを滑ることができないにも関わらずです。
技術面の指導をするのは、インストラクターです。
まとめると、以下のようになります。
- インストラクター → 技術面の指導
- コーチ → マインド面の指導
- メンター → 技術面からマインド面まで幅広く指導(もしくは目標にされる存在)
コーチングを受けると会社をやめる人が増える?
コーポレートコーチングに対する素朴な疑問として、コーチングを受けた結果、会社をやめる人が増えないか?ということです。コーチングを受けた結果、組織と自分のゴールがかけ離れていると感じたり、現在の仕事が「have to」だと考えるようになれば、会社をやめるという選択肢は当然入っていくるでしょう。
個人向けのパーソナルコーチングの場合は本人が自費で受けている以上、会社をやめると言っても特に問題にはならないでしょう。しかしコーポレートコーチングは通常、会社側がコーチに依頼して受けるもの。費用も会社が払います。会社の立場としては、コーチングを受けたばかりに、従業員に辞められては損失になるとも言えます。
これは2つの見方があって、1つはトップの抽象度が低いことが上げられます。抽象度が低ければ、従業員たちのゴールを内包できる可能性は低くなります。これが最大の原因だと苫米地さんは言ってます。
もう1つは「have to」の状態で仕事を続けられても、生産性が上がらないので辞めてもらって構わないという考え方です。「have to」つまりしなくてはならないと仕事をしていても、生産性の向上は見込めません。辞めて貰った上で、自社のゴールに合った人を新たに雇うほうが良いと言います。
従業員を失うのは短期的には損失ですが、長期的な視点からすれば、生産性の高い従業員を増やすほうが理にかなっていると思います。
コメント