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山本弘VS苫米地英人!?『トンデモ本の世界Ⅴ』

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トンデモ本の世界V

今回は苫米地さんを批判してる本をレビューします。批判の対象になっているのは、先日レビューを書いた『洗脳護身術』になります。

世の中にはトンデモ本という本のジャンルがあり、疑似科学やオカルトを本気で主張している本の中でも、『著者の意図とは異なる視点から楽しむことができる本』を指します。アマチュアライターの藤倉珊氏が提唱した概念です。

と学会はこれらのトンデモ本に関する本を出版したり、日本トンデモ本大賞の主催など現在も活動しているようです。

山本弘氏とは?

山本弘氏はSF作家です。『去年はいい年になるだろう』で星雲賞日本長編部門を受賞するなど正統派SF作家として人気があります。最近ではライトノベルも執筆するなど幅広い活躍をされています。

山本氏は疑似科学や陰謀論、オカルトに対して啓発する活動も行っており、『ニセ科学を10倍楽しむ本 (ちくま文庫)』なども書いています。上記のと学会では初代会長を務めていました(2014年、と学会の会長及び活動から引退されたそうです)

と学会もそうですが、山本氏のスタンツはトンデモ本に対して、正面から検証して批判するというよりは、皮肉を交えながら面白おかしく書くスタイルです。

私はSF小説もライトノベルも好きです。そして、トンデモ啓発家(?)として有名な山本氏が本書で苫米地さんの批判を書いているということで、ワクワクしながらページをめくりました。

山本弘vs苫米地英人

洗脳護身術の危険性

山本氏は苫米地さんの経歴を簡単に紹介しつつ、オウム事件における苫米地さんの脱洗脳に疑問を投げかけて、本書の内容を説明します。

要約すると、「他人に洗脳される前に、自分で自分を洗脳しろ」というのである。

(中略)

読んでいるうちに変な気分になってきた。これって基本的にオウムがやっていた修行と何ら変わりないのでは?

(中略)

だが不安になってくる。読者がこの本を読んで苫米地氏の教えを忠実に実践することは、カルト教団の本を読んで呼吸法や瞑想を実践するのと、何がどう違うのだろうか?

166~167ページ

細かい技術の理解はともかく、洗脳護身術が『他人に洗脳される前に、自分で自分を洗脳しろ』というの内容であるのは正しいと思います。苫米地さんも洗脳護身術の中で洗脳に脱洗脳や自己脱洗脳も含まれていると書いているので。

本書では、洗脳と脱洗脳、自己脱洗脳という言葉をそれなりに使い分けているが、本書の本意は、すべてひっくりめて「洗脳」である。脳を洗うという言葉通り、脱洗脳することも中立的な意味で洗脳である。煩悩から自己を解放する自己脱洗脳も「心の染み」を脳から洗う「洗脳」である。故に本書では、洗脳という言葉の意味に、脱洗脳も自己脱洗脳も本来は含まれているということを留意いただきたい。 『洗脳護身術』16ページ

自分や相手を変性意識状態にして、ホメオスタシスの働きを使って内部表現を書き換えるという苫米地さんが洗脳護身術の中で言っている洗脳の流れも、オウムなどのカルト教団の洗脳方法やCIAが行ったMKウルトラ計画などと本質的には変わらないと思います。

違いとしては、薬物や監禁など違法な手段を使わないことと、それを行う動機だけです。

警察官は柔道などの武道を習得しますが、それは犯罪者の使う柔道と技術的には変わらないのと同じ。違いは警察官の柔道が犯罪の防止や抑止を目的として法に則って使われることです。

なので、苫米地さんが洗脳護身術で書いている技術が危険ではないか?という山本氏の問いかけは説得力があると思います。

これについては洗脳護身術のレビューに書きましたが、洗脳護身術の技術の中で、変性意識の生成と精神の基礎体力の育成はともかく、最後のマインドエンジニアリングの生成については独学では難しいと思います。

マインドエンジニアリングにはエリクソン派の心理療法が使われているのですが、これをマスターするには知識よりも実践が必要です。そのためには相手がいなければ練習できませんし、技術的にも極めて難しいので、苫米地さんやそれ以外の専門家に師事する必要があります。

これは柔道や空手などをマスターするには本を読むだけで無理で、道場に通って稽古を積む必要があるのと同じです。

苫米地さんは学会で報告されているものか、海外の学術文献に載っている方法論しか洗脳護身術には書いていないと言っています。

しかし、それだけではなく、本を読んだだけでは最後の部分がマスターできないので、書いても大丈夫だと判断したのではないかと私は推測しています。

エヴァンゲリオンではダメなのか?

洗脳護身術の中で、洗脳から身を守る方法として仏教の技法を応用した『観念念仏』というのが出てきます。瞑想の一種で、巨大な仏を強くイメージして、自分を一体化するものです。

現代人は仏像や仏画を見る機会が少ないので、瞑想で作り上げる巨大な仏は鉄人28号やウルトラマン、エヴァンゲリオンやマジンガーZでも構わないと苫米地さんはいいます。

これに対して山本氏がツッコミを入れます。

自分をエヴァンゲリオンだと思うことで洗脳から身を守る!すごいんだかバカバカしいんだかよく分からない。だいたいエヴァはともかく操縦者のシンジくんは「決して内部表現の介入を許さない強さを持ったヒーロー」には見えないのだが。それに鉄人28号じゃリモコンを持った悪人に操られてしまうし、売ると他万じゃ3分しかもたないんでは・・・などと、即座にいろいろツッコミが浮かんでしまう。 170ページ

洗脳護身術のAmazonページにはエヴァンゲリオンの監督である庵野秀明氏のコメントが以下のように記載されています。

「溢れかえる情報過多の世界。一元化された価値観を求め、全てを盲信する人々。そんな時代には、このような精神的防衛手段も必要なのかと、感じます」-庵野秀明氏。 洗脳護身術―日常からの覚醒、二十一世紀のサトリ修行と自己解放より

庵野氏と知り合いだと苫米地さんは言っていましたが、テレビを見ないと公言している苫米地さんがエヴァの内容をどの程度理解しているか不明です。

しかしエヴァンゲリオン初号機とはひと言も書いていないので、零号機や弐号機かもしれません。初号機にしてもパイロットがシンジくんではなく、ダミーシステムの状態を指している可能性があります。

山本氏がいう通りシンジくんは「決して内部表現の介入を許さない強さを持ったヒーロー」には見えませんが、そのシンジくんが巨大な使徒相手に戦えているし、エヴァにはATフィールドがあります。

これらの点を考えると、観念念仏の趣旨からしてエヴァをイメージすることは、そこまで的外れだとは思えません。

また何をイメージするかは個人によって違います。エヴァやウルトラマンに巨大で強いイメージが持てないならば、イデオンでもゴジラでも自分がイメージを持てるものならば何でもよいと思います。

苫米地英人が軽視してる危険性!?

最初に指摘した洗脳護身術の危険性とは別に、洗脳護身術の最大の欠点、苫米地さんが軽視している危険性を山本氏は訴えます。

自分を守るために、何者にも洗脳されないように精神を強くするーー一見これは正しいように見える。だが、それはあくまでも自分の信念や思想信条が正しい場合だけだ。もし間違っていたらどうなる?(中略)間違いを指摘されても認めようとしなくなるのではないか?(中略)つまりこの『洗脳護身術』とは、「トンデモさんになる方法」ではないのか?

だとしたらそうならない方法は簡単である。この本に書いてあるのと逆をやればいい。自分が小さな存在だとイメージするのだ。たとえば、「相対論は間違っている」という信念は、言い換えれば「私は世界中の物理学者すべてよりも頭がいい」という誇大妄想である。「自分の頭がそんなにいいはずがない」と思っていれば「世界中の科学者が正しいと言っているのだから、たぶん自分の考えがどこか間違っているのだろう」と謙虚になれるはずだ。

洗脳護身術が危険な技術で、その使い方によっては自分がトンデモさんになってしまう危険性があるのはその通りだと思います。

科学では疑うことが大事です。反証可能性も必要でしょう。『相対論が間違っている』ということが間違っている可能性も考えなくてはなりません。

しかし、『自分を小さな存在だとイメージする』の部分には同意できません。ましてや『自分の頭がそんなにいいはずない』と思うのは論外です。

このような考えはエフィカシーを下げます。

エフィカシーを下げることの問題点は苫米地さんが主張しているだけでなく、以前レビューをしたアルバート・バンデューラマーティン・セリグマンなどの心理学者たちも表現方法に違いはありますが、苫米地さんとほぼ同じ意味のことを言ってます。これを否定するのであれば、それなりのデータが必要です。

また、「相対論が間違っている」というトンデモさんの信念が「私は世界中の物理学者すべてよりも頭がいい』というのもひどく飛躍しています。そもそも山本氏のいう頭の良さの定義とは?

「相対論が間違っている」と主張しているトンデモさんについて確実に言えることは物理学の知識が乏しいことでしょう。

効果的な世論操作や集団を説得する方法を書いた本『プロパガンダ―広告・政治宣伝のからくりを見抜く』の中で情報には中心ルートと周辺ルートがあり、周辺ルートの情報に人は簡単に影響を受けてしまうとありました。周辺ルートとは専門外のことや自分に関係のない分野のことです。

つまり物理学の知識がなければ、「相対論が間違っている」という主張をしたり、そのようなトンデモ情報を簡単に信じてしまう可能性が高いのです。

物理学者であれば「相対論が間違っている」というトンデモ話に影響されることはないですが、専門外の分野、例えば歴史系や経済系、政治系などのトンデモ話を信じてしまう危険性はあります。

一つの分野の専門家だとしても、すべての分野で詳しいわけありません。他分野については素人と大きな違いがないことも多いでしょう。

自分の知らない分野の情報はすぐに鵜呑みにせず、慎重になるべきです。

しかし、『自分の頭がそんなにいいはずがない』と思ってエフィカシーを下げることは自分自身にとって大きなマイナスにしかなりません。

苫米地英人のトンデモ本は?

洗脳護身術の危険性を訴えるなど同意できる部分もありますが、山本氏の批判は全体として雑な印象を受けました。

特に最後の対処法の部分を見る限り、山本氏の心理学への理解が足りていないと思います。

苫米地さんが取り上げる心理学のレベルはかなり高く、認知心理学や教育心理学など一般教養のレベルを超えているので難しいかもしれません。

また、洗脳護身術の危険性を訴えることは、洗脳護身術の方法論が効果的であることを意味しますが、本当に効果はあるのでしょうか?このあたりを山本氏にツッコんでほしかったです。

洗脳護身術は苫米地さんの本の中でも、解説と参考文献がのっており、仏教や気功などの東洋の技術とエリクソン派の心理療法の西洋の技術を組み合わせたかなり独自性のある本です。これを批判するには、膨大な知識が必要です。かなり難易度が高いと思います。

トンデモ本の世界V』が出版された2007年の段階で苫米地さんはまだ数冊しか本を書いていませんが、2018年現在は200冊以上出版されています。これらの中にトンデモ本はないのでしょうか?

そんなことはありません。

私としては苫米地さん関連のトンデモ本として以下の本を押したいです。苫米地さんの単著ではありませんが。

以前にレビューを書きましたが、この本はすごいです。

気功を扱っている=トンデモ本と単純に言いたいのではありません。

表紙からしてトンデモ本っぽさが全面に出ていますが、問題は中身です。

気功の胡散臭い体験談や(まったく科学的とは思えない)気功の科学的検証などトンデモ本的な内容が盛りだくさんになっています。

絶版になっているのが惜しまれますが、図書館等で探してみるのもいいと思います。

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