苫米地さんが本の中や動画で繰り返し言っていることは”エフィカシーを高めろ”ということです。
コーチングでのコーチの仕事を聞かれたときも”クライアントのエフィカシーを高めること”と言っています。コーチングを依頼したクライアントはゴールの達成を望んでいるのですが、コーチができるのは、その可能生を高めるためにクライアントのエフィカシーを高め、ゴールを達成するのはクライアント本人次第。
コーチング以外でも、たいていの問題の解決策として苫米地さんが提案するのがエフィカシーを高めることです。
エフィカシーとは?
ではエフィカシーとは何でしょうか?
エフィカシーは心理学用語で、正確にはself-efficacy(セルフエフィカシー)です。日本語では自己効力感と訳されます。自己効力感と言われてもいまいち理解しにくいですが、要するに自分の能力に対する信頼感のこと。
一般的には”自信”といったほうがしっくりくるかもしれません。
英語ではセルフエフィカシー以外にもself-confidence(セルフコンフィデンス=自信)やself-esteem(セルフエスティーム=自尊心)など似たような言葉がありますが、エフィカシーの特徴は何かしらの課題を達成するための能力に対する自信を指している点です。
例えば自分の行動をコントロールする能力、対人関係の能力、勉強ができる能力などがあります。これらはそれぞれ自己統制的自己効力感、社会的自己効力感、学業的自己効力感と言われます。
このエフィカシーは苫米地さんの作った用語ではなくて元ネタがあります。
アルバート・バンデューラ氏について
セルフエフィカシーの概念を提唱したのがカナダ人心理学者のアルバート・バンデューラ氏(Albert Bandura)です。バンデューラ氏はアメリカ心理学協会(APA)の元会長で、論文が引用されたランキングで第4位。学者の能力を判断するにあたって、論文の引用数(インパクトファクター)というのは一つの指標になります。
実際に論文の引用数を調べることができるGoogle Scholarで検索してみると48万件以上という途方もない数字が出てきます(2018年2月現在)
そしてバンデューラ氏は20世紀最高の心理学者ベスト100のランキングでは第4位に選ばれています。
心理学の世界では行動分析学のスキナーや精神分析のフロイトなどのビックネームに次いで偉大な心理学者だといえるでしょう。
苫米地さんの行っているコーチングの団体TPIジャパンのサイトにはTPIEの開発協力者としてバンデューラ氏の名前が載っています。
また、TPIの英語のサイトの TPIの歴史には以下のようにあります。
March 1991
The 20-year anniversary of The Pacific Institute® Inc. is marked by a two-day collaboration between Lou Tice and Stanford University’s Dr. Albert Bandura. Dr. Bandura is the most-referenced living psychologist according to the American Psychological Association magazine, and his relationship with the Institute continues to this day.http://thepacificinstitute.com/about-us/より引用
日本語訳 1991年3月
PacificInstitute®の20周年記念日は、ルータイスとスタンフォード大学のアルバート・バンデューラ博士の2日間のコラボレーションによって注目されました。バンデューラ博士は、アメリカ心理学協会誌によると、最も参考になった生きている心理学者であり、研究所との関係は今日も続いています。
1991年にルータイス氏とコラボしたそうです。その後の1995年にルータイス氏は「アファメーション(原題はSMART TALK)」を出版しました。
アファメーションを行うのもエフィカシーを高めることが目的です。ルータイス氏のコーチングの理論的、学術的な部分を補足、開発したのがバンデューラ氏ではないでしょうか。
激動社会の中の自己効力感
『激動社会の中の自己効力感』は1997年に出版されました。バンデューラ氏だけではなく、多くの心理学者が書いている論文集になります。内容は健康から職業、教育など幅広いですがテーマには自己効力感(エフィカシー)についてのものです。
バンデューラ氏は監修者であると同時に第1章の”激動社会における個人と集団の効力の発揮”を書いています。
エフィカシーを高めるには?
バンデューラ氏はエフィカシーを高めるには4つの方法があるといいます。
1つ目は成功体験です。人間は経験によって物事を判断します。成功体験を多く積むことができればエフィカシーも上がります。逆に失敗体験をするとエフィカシーを下げます。初めのうちは小さな成功を積み重ねたり、失敗をどうとらえるかが重要になってきます。
2つ目は代理体験です。自分と似たような境遇や似たような環境にいる人が成功しているのを見ると、自分にもできるという信念を持つことができて、エフィカシーが上がります。これは成功者のインタビューや自伝などを読むことがよいかもしれません。
3つ目は社会的説得です。周りから認められることによってエフィカシーを高める方法です。周りの人にあいつは出来ると言われて本人もできる気になるということ。ただしこれが難しいとバンデューラ氏はいっています。自分の力ではどうにもならないからです。また他人のエフィカシーを高めようと思っても、本人にその気がなければ効果がありません。この解決策になりえるのがコーチングなのだと思います。
4つ目は生理的なことや感情です。自分が元気で健康だと当然エフィカシーも上がり、何かしらの理由で弱っていたらエフィカシーも下がります。感情については言うまでもありません。苫米地さんは健康に関する本も書いていますが、これもエフィカシーを上げるにあたって必要なこと。感情はアファメーションが効果的です。
高いエフィカシーが必要な理由
苫米地さんは仕事やスポーツ以外にも高いエフィカシーが必要だといいますが、バンデューラ氏も同じです。
人間が目標を達成したり肯定的ウェルビーイング状態にあるためには、楽観的な自己効力を必要とする、これは通常の社会の現実が困難にあふれているからである。
妨害、災難、失敗、挫折、不公平などでいっぱいである。成功するのにたゆまぬ努力を維持するためには、強い自己効力感をもちつづけなければならない。 13ページ
現実の世界のさまざまな困難を乗り越えて、ゴールを達成するためには高いエフィカシーが必要だというのです。
エフィカシーが高いと問題はないのか?
エフィカシーを上げることの問題として、自分の能力を過大評価してしまう危険性はよく言われます。ダニング=クルーガー効果などあります。
自分を過大評価することについてはバンデューラ氏も否定していません。むしろ肯定的にとらえています。
自己評価を誤ると、自分の能力を過大評価しがちである(Taylor,1989)。これは、根本から変えてしまうべき認知的な弱点とか性格的な欠点ではなくむしろ、利点である。
もし、効力の信念が常にその人の出来事だけを反映しているのであれば、日常の自分の能力に対する判断を過度に控えめに定めてしまうだろうし、それは、そういった傾向の習慣化をもたらす。用心深い自己評価のもとでは、人々は直接手の届かない野望はもたないし、普通の行為を超越するための余分な努力をすることはめったにない。
実際に、子どもたちが自分の能力を楽観的に信じたときに、それを咎められるような社会システムでは、子どもたちは自分の達成の可能性を控えめな予測にあわせてしまうものである(Oettingen,1995[本書5章])。13ページ
苫米地さんは大きなゴールを達成するためには『ノット・ノーマル』であることが必要だといいます。ゴールが大きければ大きいほど普通のやり方や常識的なやり方では通用せず、普通でない方法が必要だからです。
バンデューラ氏も社会改革などの大きな分野では、現実主義よりも(多少誤っていようとも)エフィカシーの高さが必要だといいます。そうでなければ、困難なことを成し遂げるのは難しいからです。
こんな人にオススメ
上に引用した文章を見ればわかると思いますが、本書の文章は読みにくいです。論文集なのだから当然ですが、初心者にお勧めできるわけではありません。エフィカシーについて知りたければ苫米地さんの本のほうがわかりやすく読みやすいです。
しかし、コーチング理論の学術的な裏付けやエフィカシーについて深く知りたいのであれば、本書を読む価値はあると思います。
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