『橋下×羽鳥の番組』とは
『橋下×羽鳥の番組』は2016年4月からテレビ朝日系列で放送されてた、元大坂市長の橋下徹氏とアナウンサーの羽鳥慎一氏の番組です。先日9月25日の放送で最終回を迎えました。
番組内には論客面談という企画がありました。これは橋下氏とゲストの論客が1対1で論戦を展開するというものです。その2017年1月30日放送回で苫米地さんがゲスト出演しました。

苫米地さんは東京MXのバラ色ダンディにも木曜レギュラーとして出演していますが、バラダンは知識人枠(?)で基本的に苫米地さんのトークを他の出演者の方が聞く形というか、苫米地さんの話に他の出演者の方たちがついていけていないと思います。基本的には論戦になりません。
しかし、橋下氏の番組・・・特に論客面談はガンガン議論をするスタイルをとっているのが特徴です。しかも相手はあの橋下徹氏。これでワクワクしないわけがありません。
2017年1月30日放送回の内容
苫米地さんは『一歩も引かない洗脳の科学者』というキャッチフレーズで呼ばれ、羽鳥氏が『史上最強の論客』『かなり弁が立つ』などと紹介します。認知科学者でカーネギーメロン大学出身、日本人で初めての計算言語学の博士号取得、オウム信者の脱洗脳などの苫米地さんの基本的な情報がVTRで流れます。
いまから13年前の2004年の苫米地さん。顔はあまり変わっていませんが、メガネをかけているのと髪型が異なるので全体の印象は大きく違うと思います。
第1ラウンド テレビは洗脳装置
苫米地さんが発表したテーマは、『橋下よ!洗脳するな』というもの。文字では橋下と呼び捨てで書いてありますが、苫米地さんは橋下”さん”と言っていました。
そして橋下氏に限らず、政治家は原則としてテレビに出てはいけないと苫米地さんは言います。ただし憲法の職業選択の自由に接触するので、妥協して『(テレビ出演を)三年は自粛してほしい』と付け加えます。
これに対して橋下氏はテレビに出ることが、政治家として有利に働くことは認めつつも、有権者に対して本当に洗脳できるのか?と返します。
苫米地さんは、都知事選のときにテレビが取り上げる機会に偏りがあると主張しました。これに対して橋下氏は多くの有権者に自分の政策を伝えていく手段としてメディアがあると言う。
これに『まったくその通り』と苫米地さん。橋下氏は日本のメディアの数が少ないことを問題視し、苫米地さんも同意します。
第2ラウンド 安全保障関連法の問題点
途中で苫米地さんが『今日は安保法制の話しようと思って』と話題が変わる。ここで苫米地さんが洗脳だけでなく軍事分野にも詳しいというナレーションが入ります。
安保法の問題点として、日本人が人質になっても相手国の許可がないと自衛隊が救出に行けないというものがあります。これを苫米地さんは問題だと言うのです。
橋下氏は問題点を認めつつも、今までは救出ができなかったのが条件付きでできるようになり、以前よりは良くなったのでは?と言いますが、苫米地さんは以前よりダメになったと言います。
橋下氏が『(人質を)放っておけばいいんですか?』、『違います』と苫米地さんが即答し、救出に行けると言います。憲法違反で無理だという橋下氏、安保法が無かったら人質をどうするのか?と激しく苫米地さんを問い詰めます。
ここで苫米地さんは『法律の話じゃない能力の話』と言います。人質救出に行ける法律があっても、現場の自衛隊員にそれを遂行する能力(装備や予算)が無いことを問題にしているのです。
橋下氏は法律を整備しなければ訓練をしたり予算を付けることができないと言います。つまり二人は順番について議論しているのです。
ルールを作ることは正しいと肯定したうえで、自衛隊特殊作戦群の訓練はすでに足りていて、足りないのは情報通信だと苫米地さん。それが無い状態で戦場に行かせてはいけないと。橋下氏もこれには同意しますが、政府の判断なので仕方が無いと言います。
再度苫米地さんは戦争が5次元化していることを強調します。昔の戦いは平面の戦いでしたが、第一次世界大戦時、航空機によって戦争は立体になりました。現在ではこれに加えて時間と情報空間という次元が加わったというのです。自衛隊の訓練は、情報空間での戦闘に対応できないと言います。
ここで苫米地さんの著作『日本人だけが知らない戦争論』の中にある、イランの核燃料を作るための遠心分離機がスタックスネットによって攻撃を受け故障したことの説明のナレーションが入ります。

『PKOと安全保障の話を苫米地さんが誤解している』と橋下氏、9条がある以上どうすることもできないと。アメリカのように自衛権があることが前提の国と日本は違うと言います。まだその段階ではないというのです。
苫米地さんは過去にこだわるのは官僚がやるぺき仕事で、政治家はもっと大きなビジョンを掲げるべきだと言います。橋下氏は賛成だが、現実的では無いと反論し、先ほどテレビで言うなといったじゃないかと言いますが、苫米地さんは政策ではなく国のあり方の問題なので『いいです』と答えます。
終了
討論はここで終わり、橋下氏と羽鳥氏が感想を話している間、苫米地さんは別室のモニターでその様子を見ながら笑っていました。上半身はスーツでしたが、下半身はいつものチェーン付き革パン。タブレットを持参してきたが、活用されなかったそうです。
最後に苫米地さんがコメントを述べて、苫米地さんの出番は終わりました。
番組の感想
前半のテーマが『橋下よ!洗脳するな』でしたが、これが良くなかったと思います。選挙のときにメディアの扱いが公平でないことは事実で、改善するべきです。ただそれを洗脳というのには説得力が乏しいです。普段の苫米地さんらしくないと思いました。
番組が終わったあとにニコニコ生放送『2017年2月号1回目 よくわかる!JASRACのお勉強(なまべちvol.95)』のなかで、テーマは苫米地さんが決めたものではなくて、当日渡されたと言っています。編集でカットされた発言もあるが、それは苫米地さんが了承したそうです。
たしかに苫米地さんのことを知らない視聴者に対して、”洗脳”というわかりやすいキーワードを使いたかったという番組側の意図を感じます。そして苫米地さんもテレビ向けにサービスしており、空気を読んでいると思います。
しかし、テレビは洗脳に最適で洗脳されたくなければ見るなというのは、これまで苫米地さんが著書の中で繰り返してきたことです。それを(多少グレードダウンしつつも)テレビで言うのには驚きました。
一転して後半は安全保障関連法が話題の中心でしたが、これはある程度有意義な議論だったと思います。苫米地さんが本来議論したかったのはこっちの話題だったのではないでしょうか。
中途半端な法整備は危ないという苫米地さんの主張に、橋下氏は法整備できたということは以前に比べて前進していると言います。
他にも抽象度の高い話をする苫米地さんに対し、現実的に可能かを問うかたちで反論をする橋下氏。憲法改正が必要だという意味では意見が一致しているとも言えます。
また、戦争が5次元化しているということは一般的ではないと思います。今回は視聴者に広める良い機会だったのではないでしょうか。
ただ、前半のテーマ設定が、後半に苫米地さんの主張の足を引っ張っていたのは否めません。
編集のせいだということもありますが、アウェイでの論戦ですし相手が橋下氏。苫米地さんも普段の感じというわけにはいかなかったのでしょうか。
とはいえ、『橋下×羽鳥の番組』にその後の2月27日放送回『今!あらためて北朝鮮を考えるSP』、5月1日放送の北朝鮮特集にも苫米地さんはパネラーの一人として出演しています。
両方とも北朝鮮関係の内容で、苫米地さんの肩書きは『認知科学者・軍事専門家』となっていました。
論客面談で橋下氏を相手に安保法の議論をしたおかげで、洗脳だけではなくて軍事の専門家として名前を売ることはできたということ。出演した意義は大きかったと思います。
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