苫米地さんの自伝本です。少年時代のことから学生、社会人、渡米し研究者に、帰国し再び社会人に、オウム事件の裏話、事業展開・・・という感じでこの本が出版された2008年までのことが書かれています。
苫米地さんの過去の話は他の本で断片的に出てきたり、本人が語ったりしますが、苫米地英人の経歴は本書が一番まとまっていると思います。
よって本書は苫米地英人についての第一級史料であると同時に、基本的文献と言えるでしょう。苫米地さんのファンが読むべきなのはもちろんですが、苫米地さんのことをこれから知りたい人も必読だと思います。
もっと言うのであれば、苫米地アンチの人も読むべきでしょう。なぜならば、苫米地さんの経歴があからさまに書かれているからです。
苫米地英人の座右の銘
本書の表紙をめくり、さらに中表紙をめくると苫米地さんの座右の銘とサインが目に入ります。座右の銘は『止観明静(しかんめいせい)』と『一念三千(いちねんさんぜん)』の2つです。どちらも苫米地さんが僧籍を持っている天台宗に由来のある言葉です。
心を落ち着かせて1つのことに集中して仏法を追求することを「止観」と言います。天台宗における瞑想のことです。「明静」とは明るく静かな世界、つまり悟りのことだそうです。これらを組み合わせて『止観明静』。
「止観」と「明静」は用語として個別に存在するのですが、『止観明静』という四文字熟語としての用法は聞いたことがありません。検索しても出てこないし、岩波 仏教辞典 第二版と例文 仏教語大辞典には載っていませんでした。天台宗内で使われるものか、苫米地さん自身が考案した四文字熟語の可能性があります。
「一念」・・・つまり人間が一瞬念じたことの中に全宇宙(三千)の理が含まれるというのが『一念三千』、これは天台宗の教えです。
この2つは別々のものではなくて、『一念三千』を体得するための実践法として『止観明静』があるのだと思います。
栄光と苦労の物語
本書を読んで思ったことは、苫米地さんの半生を順番に見ていくと、前半は非常に恵まれていて、後半で苦労しているということ。これは苫米地さんの性格形成に大きな影響を与えているのではないでしょうか。
祖父が国会議員で、父は銀行員で転校を繰り返しながらエキサイティングな少年~青年時代を過ごしています。アメリカにも住んで、日本に戻り上智大学に入学し、そして三菱地所に父親のコネで入社します。
その頃、東大法学部でトップの学生の進路は大蔵省(現在の財務省)に行くか興銀に行くか悩んだほどだった。まさにその時代の興銀と三菱地所には密接な関係があり、私の父親と財務担当者の原常務は親しかった。そもそも原常務は東大医学部に進んだ私の従兄弟と親友だったということもあり、半ば家族ぐるみの親交があった。
父親と原常務の間で「来年うちの息子が就職なんだ」という話をしたそうで、それは大人の間の話ではコネ入社を依頼した、ということなのだろう。翌週には父親に呼ばれ、すでに三菱地所入社への話は整っていた。就職するかどうかさえ考えていなかった私にとっては、三菱地所が何をする会社かさえよくわかっていなかったが、話を聞いてみると面白そうだなと思い、特にこだわりなく就職することを決めた。80~81ページ
この時代、親族のコネで会社に入ることは珍しいことではなかったでしょう。
しかし三菱地所という大企業に入社し、バブル景気前夜の安定成長期という不動産業にとっては最高の時代に財務などの仕事を経験して、会社に籍を置いたまま留学、その後も形の上では退職していますが、いつでも復帰できる状態。完全に三菱地所から退職するのはジャストシステムに入社するときだったそうです。
三菱地所の中で自分は『ノット・ノーマル』だったと苫米地さんは言っていますが、こうした背景があったからこそ可能だったと思います。
ここまでは客観的に見て非常に恵まれていると思いますが、ここから苫米地さんにはさまざまなトラブルが起こりはじめます。
ジャストシステムに入社してからは、証券会社の横やりによりプロジェクトを潰され、オウム事件では警視庁公安部にこき使われたあげく、最終的には敵視されてしまいます。
ペーパーカンパニーだったコグニティブリサーチラボラトリィズで本格的に仕事を開始してから、新たに株式会社シーアールエルブレインズという会社の代表取締役社長、のちに会長にに就任した苫米地さん。しかしマイクロソフトとの確執によりトラブルを抱え、財務状態はボロボロに。
やむを得ずCRLブレインズとコグニティブリサーチラボラトリィズを合併させて現在のコグニティブリサーチラボを設立。現在は黒字経営だそうですが、本書を執筆している2008年の段階では累積赤字が残っているといいます。
このように、苫米地さんの半生はけっして順調なだけではなく、多大な苦労をしている様子です。これらのトラブルを乗り越えた結果、今の苫米地さんがあるというのは感慨深いです。
苫米地英人と中国の関係
ロシアとの関係は苫米地さん本人がよく語っていますが、謎だったのは中国との関係です。最近はニコ生で中国の事情について語っていましたが、かなり詳しい様子でした。
また、苫米地さんの公式サイトのプロフィールページには中国南開大学客員教授という肩書きがあります。
本書を読んでわかったのが中国との関係です。南開大学は中国の名門大学で、苫米地さんの親友がOB会の会長をしていて、その紹介で南開大学の客員教授になったということです。
親友は胡錦濤元国家主席の元部下で、中国共産党内でも大物だそうです。なので苫米地さんは中国共産党ともパイプがあり、日本の某政治家と在日中国大使を仲介したこともあるといいます。
アメリカ、ヨーロッパ、ロシアだけでなく、中国政府にも影響力があるというのは驚きました。
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